ニューノーマル時代の新しいリモートカメラシステム 会議・配信用PTZカメラは放送現場で使えるのか?

AVONIC社製品・放送現場リポート

ネット会議・ネット配信やセキュリティ市場の高まりによりPTZ(パンチルトズーム)カメラ*も多種多様に渡る製品がリリースされるようになりました。
しかしながら、光学部品・センサー、駆動機構の品質・精度にもばらつきがあるのも事実です。
Avonic PTZカメラは厳しいプロ用途にも耐える品質と信頼性を備えつつリーズナブルな価格に抑えた高いコストパフォーマンスが特徴で、欧州での公式イベント等でも採用実績があります。

今回は、数々の放送現場・ライブ現場でフリーで活躍されているテクニカルプロデューサー満田恒春氏に、AvonicブランドのPTZカメラとコントローラーを、スポーツ中継の現場という新たな試みに使って頂きました。

*旋回型カメラ、リモートカメラとも称されます。

ニューノーマル時代の新しいリモートカメラシステム
会議・配信用PTZカメラは放送現場で使えるのか?

Text/Interview=猫屋文後兵衛

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現在ネット会議・配信用として、すさまじい勢いで普及が進むPTZカメラ。
実は放送業界では天井などの無人カメラとして、また結婚式場などの収録では人の入れない祭壇に設置されたりして活用されてきた。
これらは業務機器として高価(1台70-90万円)であり、複数台の導入や低予算現場では採用が困難であった。
しかし、最近元々ネット会議・配信用としていた機種のグレードアップを図り、画質や操作においても、業務用と遜色ない製品が出てきた。
そんな中、スポーツ中継でPTZを活用する現場があるので、レポートしたい。

導入の経緯

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今回お邪魔するのは、カーリング(丸い石を投げあう氷上スポーツ)の全国大会。
その様子はCS放送で生中継される。
テクニカルプロデューサーの満田恒春氏にお話を伺った

本日はよろしくお願いします。今回PTZカメラを採用した理由を教えてください。

カーリングの放送では、アイスレベル(地上)のカメラ以外にハウス(的となる円)の石の配置や動きをとらえるために、天井にカメラを設置しています。
これはオリンピックで男女ともに正式競技となった1998年の長野大会から変わっていません。もちろん今のような小型高性能なカメラはないですから、当時の技術スタッフは大変だったようです。
ですからカーリングにおいてPTZ2台(試合中2つのハウスを往復する形で進行する)と有人カメラでシステムを組みます。ところが、昨今のコロナ禍で撮影スタッフにも厳しい制限がかかりました。アイスレベルにカメラマンが入れなくなってしまったのです。
影響のない離れたところから撮影するか、PTZカメラを多数導入するかの選択に迫られました。離れて撮影するのは無難な方法ですが、画としては迫力のないつまらないものになります。PTZカメラは近くで撮影できるが、多数導入するのは問題です。

PTZカメラを多数導入する問題は予算面ですか?

もちろんそれもあります。
しかし、それ以上に大変なのが、レンタルで同型機が5台も6台も集まらないのです。購入するにも予算的にも納期も間に合いません。

「同型機」というのは重要な要素ですか?

メーカーが同じなら画質はかなり近いし、調整で問題ないレベルです。ところが、PTZの動きや対応するコントローラーの操作感が異なるのです。
元々複数台を動かす前提がないですから、どうしようもない。現場を担当するオペレーターからも「操作が違うの困る」と言われました。

そこで廉価版会議・配信用PTZカメラの導入を検討されたのですね。

そうです。
会議・配信用の廉価版PTZカメラならば、業務用1週間のレンタル価格で十分購入ができる。
しかも通販サイトで6台注文しても翌日には届く(笑)

その後、導入に踏み切ったんですか?

いや、それほど簡単な話ではないです。動画サイトでは作例もあるし、可能性を感じたのでとりあえず1台テスト購入しました。ところが実際にテストすると、誇大広告も甚だしい(笑)

どういった面ででしょう?

すべてです。
まず、画質。作例ではそこそこ行けるものが上がっていますが、そのような高画質を得るには、非常に限られた条件下でしか再現しない。
カーリングのような屋内競技は、プレーの質の担保するため照明ムラ無いように配慮されています。しかし、それでもいろいろな方向を向けば、ハイライトもシャドーもある。
ハイライトでは階調飛びを起こして、縞のようになってしまう。シャドー部は偽色がでる。
ネット会議では問題にならないのかもしれませんが、画質に寛容ないくらスポーツ中継でもこれでは使えない。そこから地獄が始まりました(笑)

どうなったのでしょうか?

通販サイトで扱っている廉価版会議・配信用PTZカメラは、代理店がちゃんと確立していないものが多い。そもそも、そういった製品に頼るのが間違っているのですが、この手の商品はまだ歴史も新しいし、従来の代理店制度など考えもしない。そこにコストを掛けることはあり得ないわけです。
しかし、よく探してみると国内に代理店があるいくつかの製品が見つかりました。代理店では簡単ながら実機デモもしてもらえたし、日本語サポートも受けられる。とにかく、通販品のように「買ってみてだめなら売る」といったロスがないのです。

そうした中で出会ったのが、今回ご紹介いただく、AVONIC CM7Xシリーズというわけですね。

その通りです。

期待される画質

CM70series

AVONIC CM7Xシリーズの最初の印象はどうでしたか。

代理店ショールームで触ったのが出会いです。
その時は比較用に60万円程度の業務用カメラを比較にもっていきました。地上波などでも「デジ」と呼ばれるサブカメラで活躍する機種です。CSのスポーツ中継では台数をそろえるために、画角が補える条件ならこれだけでシステムを組むこともあります。
そのカメラと比較しても、暗部のつぶれや、階調といった点で問題はありません。
色見の調整も万能ではありませんが、設定で何とかなる。
ただ、ガンマとシャープネスは独特なパラメーターだったため、合わせるのが大変でしたが、コツさえつかめば、全体の中で問題になるようなミスマッチはできません。

映像の質は十分だったんですね。

そうですね。
暗部のつぶれ方も自然で、「いきなり真っ黒」みたいになりません。これなら、舞台中継や音楽ライブでも自然な映像が作れると思います。
現に先日ライブハウスでの配信ライブでも使ったんですが、良好な結果を出しました。

操作面はどうでしょうか?

まず、スピードの幅が広い。
最低速から最高速まで今まで触ったPTZカメラで一番だと思います。また、動き出しのスムーズさもピカイチです。しかし本体だけの操作は限界があると思います。
付属の赤外線リモコンや同一ネットワークに繋いだパソコンのブラウザーからの操作は可能ですが、PTZのプリセットポジションを使うか一定速のパンチルトズームしか、動かせないので、必然的に別売りコントローラーを導入することになると思います。

操作性

CON300_control

AVONIC CON300-IPですね。

そうです。私はこのコントローラーはよくできていると思います。
まず、PTZ動作をジョイスティックで行うのですが、その可変速が大変なめらか。廉価版コントローラーでは、可変速でも「4段階」みたいに「ガクン」とスピードが変わったのがわかるんです。AVONIC CON300-IPでも完全な無段階ではないんだと思いますが、かなりスムーズで違和感を感じません。これは中継をやるうえで非常に重要です。
次に、ダイレクトポジション。
PTZ情報をあらかじめ、プリセットに登録できるのですが、それを呼び出すのが「ワンキー」で行けること。一部のメーカーを除けば、プリセットを呼び出すのに「リコール→数字→エンター」と最低3つにキーを押さないと、セットしたところにカメラを向けられませんが、このコントローラーはワンボタン。しかも、ほかの動作を行った後一定の時間で、このポジションダイレクトに戻るということ。つまりホームポジションが「ポジションリコール」という設定なんです。
登録ポジションは10個ですが、これはカメラごとにセットできるので、1台のコントローラーで5台のカメラを操作できるので、実用上は十分ではないでしょうか。

ずいぶんこのコントローラーを気に入ったようですね。

そうですね。使えば使うほど「よくできているなぁ」と思います。
例えばフォーカス。隣にオートフォーカスボタンがあって、それを押せばAFになるのですが、フォーカスつまみを回した瞬間にMFに切り替わります。AFが迷った時でもすぐに対応できるのはうれしい。
似たような動きで、アイリスつまみがあります。これもAEで動かしていたものをつまみを回した瞬間にマニュアルになります。どちらも他社ではメニューを選んでからつまみを触ることになるので、対応が全然違います。

そうした現場意識のある操作性が利点ですね。

そうなんですまさに「現場意識」。
それ以外にも、PTZ動作の最高速を制限するつまみもあります。これがあることで、ジョイスティックを最大に倒しても、急激にカメラが動くことがないので、手先に神経を尖らせて微妙な動きをしなくても済みます。さらにこれが300度回転のボリウムだということ。他社製品はこの機能があってもロータリーエンコーダーなので、現在どの程度でリミットされているか見た目で判断がつかないのです。この機能はオペレーターに本当に好評ですよ。

システムとしてのメリット

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ここまでは製品について伺いました。実際に導入していかがだったでしょうか?

今回は「コロナ感染を防ぐため」無人カメラを要請されたのがきっかけでしたが、実際に使ってみるとそれ以上のメリットがありました。
有人カメラですと、映像(HD-SDI)+電源+タリ―+送り返し映像+インカムと多種の回線が必要です。ある程度の無線化もできますが、すべてのカメラを無線化するのは実用的じゃない。
その点PTZカメラは、PoEハブを使えば、映像+LAN(cat5e以上)の2本で済んでしまう。しかもカメラマンの弁当もいりません(笑) また、有人カメラに比べて設置場所の自由度があります。

オペレーターは何人ですか?

今回の全国大会では6台のPTZカメラを使ったので、オペレーターは2人です。昨年行った大会中継では4台だったので1人で挑みましたが、玉砕しました(笑) 内容にもよりますが、一人2.5台が実用的なシステムだと思います。

オペレーターの方は専任でやっていらっしゃるのでしょうか。

専任ということではないです。通常普通のカメラマンをやっていて、一人は数年のPTZカメラの経験がありますが、ふたり(日程により交代制)は初めてPTZカメラに触りました。でも、一時間もするとマスターしましたよ。
問題はPTZカメラの操作術ではなく、カメラマンとしてのセンスのほうが重要です。それさえあれば、操作はすぐに覚えられます。

デメリット

会議・配信用PTZカメラのデメリットについてはいかがでしょうか?

最初にお話ししたように「悪い製品が多い」ということです。
形が同じでも、中身は全く別ですから注意が必要です。業務用機材ではないので、その辺のリスクも自分で背負う必要がある。そのリスクをどうやって減らすかが、システム構築のポイントかもしれません。
あとは、いくら早くなったとは言え、有人カメラのように急激な対応ができるわけじゃない。それを補うには、常に先読みしてカメラオペレーターとスイッチャの意識共有ができるかですかね。

今後の展望

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今後のPTZカメラの展望はいかがでしょうか?

現在、経済状況や観客制限など、スポーツ芸術といった分野を問わず、置かれている状況はかなり厳しい。
だからこそ「伝える」ということの重要さがクローズアップされている。無観客配信ライブなんていうのはその典型です。
今回はコロナ禍ということで、大幅導入に至った訳ですが、やってみるとメリットのほうがはるかに多い。
PTZカメラの導入で我々の現場チームも少人数になり、小回りが利くようになった。プリセットの使い過ぎで、定点カメラのような死んだ画になる危険性もあるが、それは使う側のセンスや工夫で逃げられる。うまく使えば、本当に可能性のあるシステムだと思いますよ。

本日はありがとうございました。

実際にはPoEプラスの機種が必要。

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